ため息しか出ない。
Snowy Sky
メルロイが今期一杯で辞めるという話は、あっという間に隊員達の間に広がった。
「少佐。リサさんが辞めるって、本当ですか」
お聞きしたいことがあります。と、部屋に入ってきた隊員のその言葉に、俺は、元々狭めていた目を更に狭めた。ただでさえクソ忙しい時期だというのに、どいつもこいつも顔を見せれば、そのことしか言ってきやしない。最初は俺も、きちんと筋をつけて説明を返していたが、こうも繰り返し大勢に同じ質問ばかりされると、いい加減うんざりしてくる。
「本当だ」
「なんでですか。こんな、いきなり……」
「メルロイには、メルロイの人生があんだよ」
おざなりな返答だが、嘘は言っていない。メルロイが自分で考えて、自分のためにそうしようと決めたのだ。そのきっかけを作って後押ししたのは、俺だが。それを知ったら知ったで隊員達は、今度は俺を非難交じりの質問攻めに遭わせるのだろう。
「納得いきません」
「お前が納得しようがしまいが、関係ねェ。これはメルロイの意思で、大佐も承諾済みのことだ」
煙草を銜えたまま、煙と一緒に吐き捨てた。隊員は少しの間、不満を隠しきれていない顔で沈黙していたが、
「………失礼しました」
そう言って、頭を下げた。そのまま出て行こうとする隊員を、おい待て。と、いつものごとく、呼び止める。
質問への答え方はどうであれ、今まで尋ねてきた隊員全員に、きつく言い渡していたことがあった。これだけは、おざなりにするわけにはいかない。
「下手なこと言って、引き止めたりすんじゃねェぞ」
振り返った隊員を見ずに、俺は言った。見ずとも、反応は分かっている。誰も彼もみんな、信じられないものを見る目で俺を見るのだ。引き止めて何がいけない? とでも言うように。
「メルロイのためだ。お前らの甘えや我侭で、あいつを迷わせるな」
向き直った隊員が、言い返そうと口を開く。ったく。どうして揃いも揃って全員、同じ行動に出るのだか。心の中だけでため息を吐き、俺は隊員が声を出すより先に、きっぱりと言い渡した。
「これは命令だ」
いいな? そう、目で制すと、隊員はぐっと口を噤んだ。淀みなく、俺の目を見返してくるあたり、なかなか根性が据わっている。まあ、うちの隊に所属しているのだから、当然といえば当然だが。
数秒、そうやって黙って俺を見た後、隊員は勢いよく頭を下げて部屋から出て行った。
ため息が出る。軽い頭痛を覚えて、俺はこめかみを押さえた。半分の短さになった煙草を灰皿に押し潰して、途中だった書類に顔を向ける。そうしてペンを持ち直したところで、また、ため息が漏れた。
まったく、えらい人気者だなァオイ。誰に言うでもなく、心の内でぼやく。
十二月に入って、まだ半月も経っていない。だというのに、メルロイのことで話を聞きにくる隊員は、既に半数以上になっていた。訊きにこないやつは、恐らく他のやつから聞いているのだろう。俺の話や、命令の件も全部。そして、大部分のやつらは、それに不満を抱いている。
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~ 少佐と私。~